サクラ讀本『山羊のお世話をする女の子』のおはなし  親しき中にも礼儀・・・

サクラ讀本

本日は『山羊のお世話をする女の子』のお話しです。女の子の父親に対する言葉使いがとっても丁寧・・・「昔はこうだったのね。」と思いました。この教科書は俗に言う「サクラ読本」。昭和10年発行です。私の父親世代が習った教科書です。この教科書を懐かしく思われる方々がおらるかも知れませんね(o^^o)

もしも、『昔習ったこんな話しを・・・』とのご希望がありましたら、どうぞ「お問い合わせ」よりリクエストをお寄せ下さい。

小學國語讀本 巻六 尋常科用 昭和十年発行(小学3年生後半)
七 『山羊』

草を刈っていらっしゃるおとうさんの所へお手伝いに行きました。刈り集めてある草を、山羊にやろうと思って、私は、両手で持てるだけ持って、山羊小屋の方へかけて行きました。
「どうして静かなのだろう。」と思ってのぞいて見ると、山羊は一匹も居ません。
「ああ、そうだった。」
私は大きな声でひとり言を言って、裏へ廻りました。稲が刈られたので、昨日田んぼに柵を作って、山羊の運動場をこしらえてやったのでした。


親山羊は柵のきわに秋の日を浴びて座って居ましたが、私の足音を聞きつけてすっくと立ち上がりました。向こうの方で遊んで居た二匹の子山羊は、鳴き声を立てながらこっちへかけて来ました。そうして三匹とも前足を柵にかけて立ち上がりました。
草をどさりと投げてやると、三匹が頭をくっつけておいしそうに食べ始めました。
親山羊は去年のちょうど今頃、遠い遠い山国から汽車に乗って来たのです。月夜の晩に此の村の停車場に下された時はどんな心持ちがしたでしょう。其の時、お父さんと私と停車場まで迎えに出てやりました。


今年の春、此の二匹の子山羊が生まれました。今ではもうお乳を飲まなくなりましたが、生まれた頃は乳房をくわえて、うまそうにすっぱすっぱと吸っていました。そうして、子山羊が飲んだ後でお父さんは、お乳をしぼって私たちにも飲ませて下さいました。夏休み過ぎから子山羊に乳がいらなくなったので、私たちは毎日たくさん飲むことが出来るようになりました。
ぼんやりこんな事を考えて居ると、
「道子は、ほんとうに山羊が好きだね。」
と言うお父さんのお声。振り向くと、私の後にお父さんがにこにこしながら立っていらっしゃいました。


すっかり草を食べてしまった山羊は、やさしい目をしながら又寄って来ました。親山羊の白いひげの下を、一匹の子山羊がくぐり抜けて柵に前足をかけながら、私たちをじっと見ました。​

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