懐かしの田園風景 苗代の頃と蛙の鳴き声

サクラ讀本

小さい頃を思い出します。近所の沼の蛙の大合唱!それはそれはもの凄い迫力でした・・・

​​小學国語讀本 ​​巻7 昭和11年発行 小学四年生 国語教科書
第7 苗代の頃​​

​​​春の少し暖かい晩、「くく、くく。」と、蛙の鳴く聲がする。

その頃から、昼間は、広い田んぼの一部で、もう苗代の仕事が始まる。真っ黒な牛が、ゆうゆうと引いていくからすきの後に、掘り返された新しい土が、暖かい日光に照らされる。

土が掘り返され、くれ打ちが済むと、田に水がなみなみと張られる。今度は、牛が馬鍬を引いて、泥水の中を行ったり戻ったりする。こうして、田の土は、だんだん細かく耕されて行く。

夜、遠田で鳴く蛙の聲が、「ころころ、ころころ。」とそろそろ賑やかに聞こえ出す。

種まきが済んで十幾日、浅い水の上に、2cmか3cmぐらい、若々しい緑の苗が出揃って行くのは、見るから気持ちのよいものだ。ちょうど短冊形の緑の敷物、程良く間を置いて敷並べたようである。

苗が20cmぐらいにのびて、葉先が朝風に軽く揺れる程になると、広い田んぼは次第に賑やかになる。そろそろ汗ばむ程暑くなった日差しを受けて、男も、女も、牛も、泥田の中で働く。ここの田も、あそこの田も、掘り返した土のかたまりの間には、もうひたひたと水がたたえられている。

蛙の住処がこうして田んぼいっぱいに広がるのだ。昼間は、働く人や牛に遠慮をするように聲をひそめているが、夕方から夜になると、自分たちの世界だと言わんばかりに騒ぎ立てる。家の前も、後ろも横も、まるで夕立の降るように、蛙の聲でいっぱいである。静かだという田舎の夜も、この頃は、雨戸を閉めて始めてほっとする。

もう田植えが間近いのである。

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